本日発売!ちくま新書『経済学講義』

 ちくま新書の『経済学講義』本日発売です.教養課程での「経済学入門(半期2単位)」などにちょうどいいレベル感を意識して書きましたので,本ブログに着目していただいている方には食い足りない内容かもしれませんが,たまには復習もいいもんですよ♪ 21世紀の『経済学を学ぶ (ちくま新書)』を目指してみました.

 以下,同書「はじめに」の部分をちょっと出し*1

経済学講義 (ちくま新書1276)

経済学講義 (ちくま新書1276)

 

  

◆はじめに

 本書は「経済学という学問分野」のガイドブックです。

 経済と無縁の生活を送ることは不可能です。日常生活からビジネス、さらには政策の理解まで経済が関係しない分野はないといっても過言ではないかもしれません。この経済について体系的な解釈の方法を提供するのが経済学の仕事です。だからこそ、「経済学入門」をうたう書籍に一定の需要が存在しつづけているわけです。

 (『初めての株式投資』とか『年金問題がわかる本』のような)個別の話題の解説書とは異なり、「経済学」の入門書はどうも「わかった感」「役に立った感」が乏しいというのが正直な感想ではないでしょうか。経済学というツールは経済に関するあらゆる問題に応用することができます。しかし、「何にでも応用できる」という性質ゆえに、初学者は「何に使えるのかわからない」という感覚に陥ってしまいがちです。

 経済学の基礎を習得することは、今後の思考にとって大きな武器となります。個別の経済問題に関する(まともな)解説書に書かれていることは、各テーマに関する「経済学を用いた解釈」です。すると、経済学を理解しているなら各種解説書を読み、情報を収集するのは大幅に楽になるでしょう。それこそ、読まないでも内容がわかるという本さえも少なくないかもしれません。

  「経済学」は学んでおいて損のない学問です。しかし、体系・システムとして経済学を理解するためにはそれなりの準備運動が必要です。意気込んでミクロ経済学マクロ経済学の入門書を買ってはみたものの途中で投げ出してしまったという経験をすでにお持ちの方もあるかもしれません。体系・システムを学ぶにあたっては、本格的な学習の前に全体イメージを把握しておく必要があります。経済学を学ぶにあたっては、入門の前に「イメージをつかむ」という経験があったほうが、その後の学習がスムーズなのです。

 本書では、ミクロ経済学マクロ経済学計量経済学という経済学の基盤となる分野について、大学の学部で学ぶ内容を「ざっくり」と紹介していきます。テーマ・話題を広くとることで「経済学部で学ぶこと」のイメージを描くように説明を進むているため、多くの入門書で詳しく説明している部分をあえて飛ばしていたり、通常は入門書では取り扱わない話題も登場します。

 入門書で広範な範囲をカバーしようとすると、ともすると「用語集」のような記述になってしまいがちです。用語集型の入門書の問題点は、さまざまな理論の「名前」やその考案者の「名前」はわかったものの、それが何の役に立つのかわからないというところにあります。そこで本書では「○○を証明する(または説明する)ためにこの理論モデルが必要になった」という目的論的な説明を心がけました。目的論的な議論の展開は多くの研究者が嫌うところですが、全体像をつかむための方便としては効率的であるというのが教師としての私の判断です。

 実際に経済学を使うようになる人――政治家や官僚(そして経済学者)になるという人以外にとって、経済学を学ぶ最大の意義は「経済学っぽい思考法」を自分の「思考のツール」として身につけることにあります。経済学的な思考にとって欠かせないのがデータとの対話、そしてデータによる検証です。そこで、類書では割愛されることの多い計量経済学に多くのページを割いています。

 経済理論が何のために必要かを意識し、経済学的な思考をトレースすることで、経済学の全体イメージをつかむ。これは大学の新入生のみならず、これから経済学を学んでみようと思い立ったすべての初学者にとって有用な経験となりえると思います。そして、経済学の全体イメージは、より高度な経済学のテキストを読む際の基礎体力になり、より自分の興味関心に絞り込まれた書籍を理解するための導きの糸となってくれるでしょう。

 経済学部の新入生、経済学部を志す高校生、そして経済学に初めて触れる全ての人にとって、手軽に読めて、なんとなく経済学の魅力を伝えられる本。そんな存在を目指して本書は企画されています。

 

経済学ガイドブックで経済学の世界をなんとなく眺めてみましょう!

 

 

経済学講義 (ちくま新書1276)

経済学講義 (ちくま新書1276)

 

 

*1:校正前の草稿をコピペしているので書籍版とはちょっと違うところもあるかもしれませんmm

インセンティブと倫理

効果絶大、イエローチョーク作戦 京都、全国で反響 : 京都新聞

 犬のふん害防止策として京都府宇治市が編み出した「イエローチョーク作戦」が、全国で反響を呼んでいる。ふんの周りを黄色のチョークで囲み、日時を書くだけという手軽さながら劇的な効果を上げているからだ。

  散歩中の犬のふん.その放置を防ぐために,「目立つ色でふんを囲い、日時を残すことで、放置した飼い主に困っている人や迷惑を被っている人がいることを伝える方法」とのこと.ビラや看板といった従来の対策に比べて,効果はてき面とか.

 これを見たときに,ふと「画牢」のことを思い出しました.これは周の文王(姫昌)が治める西岐では,罪人を牢に閉じ込めずに……地面に円を描き,その中にいるように命じるだけだったという伝説があります.鉄格子も壁も,そして見張りもなしですから逃げ放題なわけですが,罪人はめったに逃げない.あえて寛大な処置を行うことで罪人の反省・改心を促したというわけ*1

 金銭的報酬や罰金(狭義のインセンティブ)ではなく,公共心や自制心に訴えるという手法は経済学の世界でも注目されています. 

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

 

  本書の大きなテーマは,金銭的なインセンティブが「公共心をクラウドアウトしてしまう」例とそのパターンをコントロールされた実験やフィールド実験を通して示していること.

 最も典型的な例としては,「保育所のお迎え時間に遅刻すると,30分あたり1000円」としたところかえって遅刻が増えたというもの.罰金制度の導入によって、遅刻に対する保護者の「とらえ方」が変化したのがその原因です.お迎え時間に遅れることが「保育士さんに迷惑をかけるよくないこと」から「30分1000円の有料サービス」に変わってしまったというわけ.

 もちろん,「遅刻30分罰金5000円」としたなら遅刻は減ったかもしれません.しかし,罰金というシステムに移行したことによって遅刻に対する保護者のとらえ方が変化することには変わりはない.もしそのような罰金の引き上げが行われたら,保護者は「高すぎだ」「暴利だ」と反発することになるでしょう.このように金銭的なインセンティブによって「ある行動のもつ社会的な意味」が変わってしまう状況を同書では「カテゴリカルなクラウドアウト」と呼んでいます.

 様々な政策・制度・システムを改革するとき,金銭的なインセンティブの付与がこのような公共心や義侠心のクラウドアウトを,なかでもカテゴリーの変化によるクラウドアウトをもたらさないかには注意が必要でしょう.

 これからの日本経済にとって,労働市場改革が大きな課題になることは多くの論者が指摘するところです.そして,労働はまさに「人と人」との関係.ちょっとした制度変化が特定の行動――サービス残業の強制や,逆に働く側の怠勤などの「意味」「カテゴリー」に変化をもたらす可能性には十分配慮してすすめなければならないでしょう.

 

 どんな時に「カテゴリーの変化」が生じるのか*2。。。正直こればかりは頭だけで考えてもわからない.だからこそ,実地での実験――地域を限定しての社会実験によるトライ&エラーがますます重要になっていくことでしょう.特にエラーの方・・・「事前に成否がわからないからやらない」では何も変わらないと思うんだよね.

*1:封神演義』では逃げ出しても文王の占いで見つかってしまうからという理由ですし,そもそも単なる伝説でしょといわれればその通りですが^^

*2:同書ではカテゴリー変化を伴わない限界的なクラウドアウトについても議論されています・・・詳しくは本を読んでくだされ

この組み合わせがすごい!

 夏休みも終盤戦に入り,卒論指導も本格化してきています.明治大学政治経済学部ではゼミが3・4年生の2年間だけなので,この二年間で「一応は形になった論文」を書かせなければならないわけです*1

 

 僕のゼミでは特に学ぶ対象については限定せず,「データ・統計を使って何かをする」という手法面だけを限定してすすめよう…と志してはいるのですが,やはり金融政策・財政政策に関する本をまったくやらないというも変な気がしてしまう.第一,僕のゼミで経済やらなかったら詐欺だもんね.

 そのため,この短期間にマクロ経済学やって,最近個人的に凝っている地域経済論の本も読ませて,さらに学生の興味に応じて社会学や労働関係の本もとりあげながら統計・計量の基礎を抑えてもらうとなると……

 

よほど効率的にやらないと論文っぽいものが書ける所まで仕上がらないんです

 

  毎年いろいろと手を変え品を変えで工夫していますが,いま一番重宝している本がこちら.

実証分析のための計量経済学

実証分析のための計量経済学

 

 (時系列以外の)いかにも卒論に使いそうなツールがしっかり紹介されていて,しかも分析例の多くが卒論・ゼミ論なので,事前知識がそれほどなくとも具体的な分析イメージをもって学習できる! ついでに「卒論ってこういう感じの分析をすればいいのか」という勘も身につく.これはすぐれものです.

 この本をみつけるまでは,数理社会学会の教科書(?)シリーズを使っていたのですが,やはり経済学科とは興味関心が違うので苦しんでいたところ.

 ごく基本的な統計学のテキストの後なら,むしろこの本を読みながらわからないところを泥縄式に別のテキストで調べる方法がよいでしょう.今年の春の卒業生については卒論を書き始める直前に読ませることになっちゃったけど,それでも卒論のクオリティに有意に効いた気がします.

 

 ただし,さらに慎重を期すなら,これに実証分析のイメージをもう少し固めていたほうが読みやすいかもしれない.例えば,コントロールとか同時性バイアスとかがどうヤバくて,どんな方法で解決できそうなのか……といった『実証分析のための計量経済学』一歩手前で,同書で説明される各手法がなぜ必要なのか,どんな時に使われているのかを知っておいてほしい.

 そんな漠たるイメージで悩んでいたところ,見つけましたよ!これ!

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用

日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用

 

 労働経済学の最新の知見を知るために非常に有用な同書ですが,計量経済学を勉強する一歩手前の本としても大きな価値がある本だと感じます.人事・雇用の話なので,興味をもって読めますしね.

 本文のなかで登場する計量的な手法はそれぞれ「なぜその方法を使わないといけないのか」が明確で,さらにテクニカルノートでちょっとした解説も加えられています.

 

 早速後期の三年ゼミで『日本の人事』からの『実証分析のための』のコンボつかってみよう.

 マクロの計量分析でもこういうセットでものすごく効果が高そうな組み合わせないもんですかねぇ

*1:3年の1月から4年の7月くらいまでは就活モードなので,事実上10か月弱の準備と半年の執筆期間……

メディアと肩書き

雑談ながら。。。

メディア出演時に所属大学名を出さない人があんまり好きじゃない.

 

画面に顔が映っているときにテロップとして出る,

明治大学政治経済学部准教授

飯田泰之

とか

経済学者

飯田泰之

明治大学政治経済学部准教授.大胆な金融政策の必要性を訴える論客.

 みたいなのあるじゃないですか.これ,出演時に必ず確認されるんですが……大学教員なのに,肩書きはもちろん,プロフ欄にも大学名を書かない人が意外といることに驚いています.

 個人的には,肩書きだけの時は「明治大学政治経済学部准教授」.肩書き+プロフのときも「明治大学政治経済学部准教授→飯田泰之エコノミストとして日本再生への経済政策を提言」みたいな順番の方が好み.できる限り大学名を,できれば学部名まで目立たせるようにしたいと思っています.

 

 当たり前だけど,メディア出演って全く「大学教員としての業務」じゃないんですよ.大学当局側からみても,所属教員のメディア露出は(大学ランキングに影響する)研究業績にならないのはもちろん,学生サービス向上にもつながらない……唯一のメリットは「大学名の宣伝になる」ことです.大学名をあえて伏せててやられちゃ大学に何の得もありません.

 無論,教員側としても業務時間外の活動で「大学への奉公」を強制されるいわれはないわけですが……

 

 「自分には何の負担もなく,自分の所属組織には(ほんの少しだけ)得にならなくもない」ことを「あえて」避ける*1意味が僕にはわからないんですよね.

 個人的には,「自分には何の負担もないのに所属組織に(ほんの少しだけ)得にならなくもない」ことが出来るんだから積極的に大学名・学部名は出していきたい.だって所属の大学の知名度・注目度が上がったら嬉しいじゃん.それを自分の負担なしで出来るなんてラッキーじゃん……って思わないのかなぁ.

 

一事が万事じゃないけど「自分に大した負担じゃなく,他の誰かが得しそう」なことをしていきたいなぁ。。。


メディア出演時に所属大学名を出さない人がどんな感覚とこだわりで動いているのか知りたいところ.

 

 

*1:番組の性質上肩書きは所属名ではなく専門名になる場合がありますが,プロフでまで大学名を出すなと言われることは(僕の経験上は)皆無です.

今週はラジオな週

 お盆休みも終盤戦.今週は大学はもちろんメディア仕事も一切なし!と思っていたら,思いがけずラジオ番組からお声がけいただきました.

 

  ひとつめは荻上チキたんの「Session-22」.2010年から今年の3月まで足かけ8年にわたった『週刊チキーーダ!』.連載中はしょっちゅう顔をあわせていたチキたんと久々のお仕事.8年前と現在の比較画像がこちら↓

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 老けて見えるのは加齢ではなく夜でひげが濃いからです(断固!)
 TBSラジオの夜枠は,僕がメディアにちょこちょこ出るきっかけになったBATTLE TALK RADIO アクセスの後番組の後番組.楽しくお話しさせていただきました.テーマは地域再生...というかまんま近編著『これからの地域再生』の紹介をさせていただきました. 

これからの地域再生 (犀の教室)

これからの地域再生 (犀の教室)

 

 チキくんモロマさせてくれてありがとう!

 そして明日は,文化放送にて「ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB」におじゃまします.今週のニュースにコメントするという役割ですが,興味を持ったネタについて掘り下げてお話しする時間もいただけるとのこと.そこで,明日は「ビットコインと“貨幣とは何か”という問題」についてお話しさせていただきます♪

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   先月も出演したんですが,生放送なのにびっくりです.僕の出番は13:30くらいからとのこと.お暇な方はぜひ!

 というわけでblog移行テストを兼ねた告知でした。。。