米英リフレ政策発動と日本の現状

 ご存じの方も多いと思いますが,量的緩和政策の実施を宣言したイングランド銀行に引き続き,FRBも半年で長期国債を30兆円,住宅ローン担保証券を120兆円(従来方針よりプラス60兆円),政府機関債を20兆円(プラス10兆円)買い入れることでバランスシートの拡大を目指すことになりました.月額に直した国債買い入れは5兆円,その他債券は11兆円の買い入れ…….さらには今後も「あらゆる手段をとるべき」とのバーナンキ先生の心強いお言葉付です.

 一方我らが日本銀行は,月額買いとり額を1.4兆円から1.8兆円へと0.4兆円増額したところで日本銀行総裁からは「限界に近い」とのお言葉…….あまりに違う規模,そして弱気.あまりの温度差の違いに思わず暗くなってしまいます.


 しかし!


 日本銀行の最高責任者である総裁が「限界だ」と言っているんです.無根拠なわけがありません.これまでも地道に国債を買いまして市場にお金を流してきたからこその「限界」であって,危機発生後の国債買い増しの規模を見てみればきっと日本銀行の積極姿勢がわかるはずです!

 それを確かめるべく日本銀行が保有する国債の銘柄別残高で危機対応が初期の2008年2月末と2009年2月末を比較して考えてみましょう(下図参照).あくまで市場への流動性供給ですから短期政府証券は除き,2年債以上の日銀保有残高をみてみましょう.2009年2月末時点でこれらの「長期債」(なぜ「」をつけるかは後述)の残高総額は42.7兆円です.

 日本銀行保有する中長期国債の額は………5.7兆円の減少!?なんで国債「がんがん買って」国債保有残高が減少するの*1??

 その秘密は満期です.国債には満期が来ます.だから仮に日銀が売りオペも買いオペもしないしても国債保有残高は変化(減少)する.政府に対しての自動的な売りオペ(?)が自動的に発生しているというわけです.ちなみに今年中に到来するこの「自動売りオペ」の総額は10兆円!最低でも残り9ヶ月で月1.1兆円強の買い増しをしないと「量的引締」になってしまう.してみると……月の金融緩和額は0.7兆円.ニュースの数字以上にしょぼい緩和姿勢です.


 問題はこれだけではありません.日本銀行はこの1年でどんな国債を買っていたのでしょう.
 
 買増の総額は6.9兆円ですが,そのうち2009年中に満期が来る国債の買増(残高ではない)は合計3.9兆円!!
 
 流動性供給策として経済理論が推奨するのは「長期債の買い切り」です.しかし,ここでいう長期債っていうのは満期まで遠い債券という意味で,制度上の区別である「2年債以上は長期債」とは全く意味が違います.満期が1年以内に迫っている債券をいくら買ってもそれは「短期資金の供給」でしかありません.

 各国が中長期資金の供給に躍起になる中で日本は中長期資金を引き締めている.これでは景気が良くなる道理はありません.なぜそこまでして中長期資金の供給を阻み続けるのか……謎は深まるばかりです.

日本銀行保有国債の残高と変化
2008年2月末から2009年2月末
2年債
満期償還による減少 2.8
買増 1.6
本暦年中満期残高 1.6
5年債
満期償還による減少 3.0
買増 1.7
本暦年中満期残高 2.8
10年債
満期償還による減少 6.4
買増 2.6
本暦年中満期残高 4.8
20年債
満期償還による減少 0.7
買増 0.6
本暦年中満期残高 0.6
その他国債
満期償還による減少 0
買増 0.4
本暦年中満期残高 0
(単位:兆円,日銀資料より筆者作成)

*1:もっとも2008年前半の引締姿勢によって国債保有高が年単位で見ると減少して見えるんだと思った人……なかなか正しいです.ちなみに2008年8月末と比較すると国債保有の「減少」は0.4兆円ほどです.でもとりあえずがんがん買ってるワケじゃないことはご理解いただけるかと