ここ最近読んだ本

ここ最近読んだ本を読んだ順と逆に…….

 6章以外wはすっごくおすすめです.
 小島先生本.小島さんの経済に関する本の中ではベストではないかと思います*1.なかでも社会保障所得再分配の根拠を理論的にこれほどわかりやすく書くことが出来るとはおもわなんだ.『経済成長って何で必要なんだろう』(芹沢・荻上編,光文社SYNODOS READINGS)終章で言及した「社会保障は(ちょっと不思議な)保険である」という考え方のちゃんとした説明になっているのでぜひ.
 ただ貨幣に関する話はやっぱなっとく出来ないなぁ.小野理論大好きだけど.しかし,期待の異質性を重視するであろう小島さんがなぜ貨幣については不連続的な複数均衡を考えるのかちょっと不思議.全員の期待がいきなり転換するわけではないので突然の貨幣信任全面喪失ってのは考えづらい*2

  • 原田泰『日本はなぜ貧しい人が多いのか−「意外な事実」の経済学』(新潮選書)

 格差・貧困にとどまらず世にはびこる俗説をデータでばっさばっさ切っていくという本です.当然ながら僕好み♪
 原田さんの文章はたいてい感情を極限まで抑えて冷徹にデータのみについて説明されていく*3んですが,今回は各章末の短評(?)で言いたいことを言ってくれています! 原田さんの普段とは違う一面が垣間見られるかもですよ.
 なかでも一番気に入ったのが,第3章章末のまとめ……

 人口減少は怖くないが,高齢化は怖い.ただし,それは,高齢者が自分たちが倦み育ててはいない若者の負担で,老後の生活を維持しようとしているからである.現在および近過去*4の高齢者は,子供を産まなかったし,育てなかった.しかも生まれてきた若者に良い職を与えることも出来なかった.だから,数が少なく,貧しくなった若者に依存して,高齢者が,高い年金を得たり,良い医療を受けたりすることはできない.これは当たり前のことではないのか.高齢者が,自分たちが悪いから仕方がないとあきらめてくれれば,何の問題もない.あきらめてくれないから問題になるだけだ.

 いいですねぇ! 日本の厚生年金水準の高さに関するデータは必見.

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

 現在の税制に関して知識社会学的(80年代以降の政策担当者や経済学者の発言を追うことで)に問題点を指摘するというちょっと変わった税の話.なかでも村上慎司氏の累進課税を元に戻しただけで7兆円近い財源になるというシミュレーション*5は必見.
 ただ,法人税についてはかなり誤解(というか仕組みを理解していない)と思われるところがちらほら.株主=資本家=大金持ちという出発点に縛られすぎている気がします.株主と言ってもいろいろ,そして機関投資家といえば年金基金だということに気づくと,法人税そのものの問題が見えてきますし,氏の主張する所得税中心主義にも大きな根拠となり得ると思うのですが…….

税を直す

税を直す

  • 松尾匡『対話でわかる 痛快明快 経済学史』(日経BP社)

 マルクスの章がものすごくよい.学史そのものをよくわかってないので,もしかしたらちょっと変わった解釈なのかもしれないけど.搾取の解説,マルクスにおける3つの思想潮流の総合はすごくわかりやすかったです.
 それにしても主人公の「合理的期待形成の登場でマクロ経済学がつまらなくなってアカデミックな経済学者を(目指すのを)やめ」て「(株屋のエコノミストという)占い師」になったという人を一人知っているんですが,もしかしてモデルなのでしょうか? 
 その他にもくすぐりの小ネタがいっぱいです.ただし,今の若い子は『パタリロ』は知らないと思うんですが.

対話でわかる 痛快明解 経済学史

対話でわかる 痛快明解 経済学史

*1:読み落としがあるかもしれないので断言できんけど

*2:というか戦間期のドイツですら紙幣は「使われて」はいるんだが…….

*3:直接会って話すときはそんなこともないので,文章を書くときに心得として感情を出さないようにしているのだと思う

*4:近未来の間違いではないかと……

*5:景況や生産人口変化の調整を入れていないので経済学の論文としては不十分だけど,これでまずは議論へのとっかかりが出来た感じです.