君たちはどう生きるか【本編】

 現在の社会問題,再分配の問題を世代間戦争としてとらえると,国民の進歩と調和を乱すとしかられてしまいそうですが……どうも損ひきかねない世代としてはそうも言ってられない.経済的には世代間会計を正常化し,社会的には世代間の支配被支配関係を解消することが重要だ……という正論は専門家の先生や難しい論考におまかせするとして,ここでは

青年期から壮年期にあまり経済・社会的な負担をせずに,壮年期・老年期以降に恩恵だけはたっぷりいただくための方法……せめてトータルで見て損しない方法

があるか考えたいと思います.用語法の問題については下のエントリを参照いただくとして,1972-83年生まれを以下仮に「X世代」と呼びましょう.

 企業が利潤を増やすためには売上げを上げるかコストを下げるかしかありません.これは個人についても同様で,「負担は少なく」「恩恵は大きく」が「得をする」ための方法です.しかし,このようなうまい話を個人の力で獲得できるほど世の中は甘くありません*1.楽して得するためには,「X世代になんだか世論が甘い」という「空気」を作っていく必要があります.

 しかし,世代間戦争の勝者である団塊の世代±αのようにうまくはいきません*2

 「造反有理」でも人手不足により就職は容易で,就職すれば就職と終身雇用制の恩恵*3にあずかった団塊の世代のように「若いときにはコストを払わず……」というわけにはいきません.

 X世代はマクロの就職難,不完全就労,就職できたとしても労働者(後輩)不足による過重労働とずいぶん経済学的な費用を払わされてきました.さらに労働市場における不安定な地位は人事権を持つそれ以上の年齢層への服従という社会学的な費用を負担しています.

 もうコストは払ってしまいました……すると問題は「壮年期以降にいかに受け取るか」というところに注目しなければなりません.戦前生まれ組は若い頃,経済的・社会的に多大な負担をした(その上,社会的に大事にされたようにも思えないのですがどうでしょう……)かわりに十分かどうかはわかりませんが賦課方式による高い年金会計収益という経済的な見返りをそれなりに受け取りました.ところが,X世代の下に続くのは超少子化社会……よほどの苛斂誅求をやらないかぎり下の世代から「払ってしまったコスト」に見合う経済利益を搾り取るのは難しいでしょう.

 そこで,求められるのが「経済的に報われないなら,社会的に報われよう」という発想の転換です.X世代が壮年期を迎えたときに「長上は偉い」「年上は敬うべし」という文化が維持……というか強化/復活されている必要があります*4

 幸運にも,「倫理の荒廃」「学力低下」「少年犯罪の増加」は年下ほど顕著だそうです!そう!X世代はそれに続く超少子化世代の方よりもいろいろすばらしいのです.この利点を生かすために武士道精神とか惻隠の情,そして目上を敬うことに理屈はいらないという理屈を大事に守っていきましょう.

 若者論のベストセラーは私たちX世代が「その年下の世代」に対してどのような態度をとるべきかを示すすばらしい教科書だったのです.『国家の品格』がいかにすばらしいかを理解できたので,今日は,このサイトでも熟読してすごそうと思います.

*1:「経済学の基本ルール④:個人がアクセスできるフリーランチはない」 from 拙著『経済学思考の技術』

*2:団塊の世代の若者時代と今の若者世代でどちらが苦労したかはわからないではないか?との批判がありそうですが……まさに「そんなことはしるか」「どの世代もそれなりに苦労している」というのがこのシリーズの意図なので,めをつぶっといてくらはい……ぅ.ネタを自分で解説するのはづかしいのでたぶんこの注は数日中に消します

*3:特に大卒組に顕著です.ちなみにリストラされやすいのは団塊ジュニアとX世代上半分の方です

*4:よく言えば尊敬,悪く言えば精神的服従には非競合性があるため,今後若者の頭数が減ってもそれなりに維持できそうです.この点については松田洋子『人生カチカチ山―女の幸せ探して三千里』の北朝鮮旅行記を参照のこと.