『週刊ダイヤモンド』4月26日号

激しくいまさらですが,定期購読の契約を忘れていたため先週から4月&5月の『週刊ダイヤモンド』を拾い読みしています.本号の特集は「営業力実践トレーニング」なんですが,本日のネタはこれではありません.

  • 「Data Focus:医師の数や病院設備の抑制も医療費削減の一法となりうる」(井堀利宏)

を読んで,ちょっと不満.要約すると,

現状分析

  • 医療への需要増より医療費関連の財政負担が大きくなっている
  • 公的サービスの性格があるので,医療は誰でも割安な料金が享受できる
  • その中で,軽度の傷病への医療サービスの提供を断れないことが問題だ
  • 患者の緊急度の選別が必要だが,供給余力があるのにサービスの提供を制限することは難しい

提言

  • 供給能力そのものを下げれば緊急性の高い患者「のみ」に医療サービスを提供できるようになる
  • したがって,医療費の財政負担抑制のために医師・病院の数を抑制すべきだ

という話なんですが…….そりゃ駄目でしょう.

 医師の数や病院を少なくして,「いつでも誰でも医療サービスを受ける」のは不可能な状態になったとしましょう.このとき,患者であるA氏の緊急度をどうやって判断するというのでしょう.

 第一,仮にこのような緊急度が事前に判断可能ならば,低緊急度の医療サービスへの保険によるカバー率を下げればいいだけです*1

 より問題なのは,医療サービスについて「需要>供給」の状態になっているとき医師や病院は患者の選別ができるようになるという点です.供給制限をしても軽度の患者を診る余裕が「全くない」というトコまではいかないでしょう.この時,地域の有力者は病院にかかることが出来,そうでない人は緊急性が低いとして医療サービスの提供を断られるでしょう.また,昔は一般的だったと言われる*2「お礼」なしには医療サービスを受けられないようになるかも知れない.

 さらに超過需要状態ですから医療サービスの質(特に医療そのものではなくそれに付随するサービス)の低下を招く.要するに患者は列をなしているんだから,法で定められた最低限度以上のサービスは一切する必要はない.

 井堀先生はいわずとしれた財政再建論者です.たしかに医師数・病院数の抑制は財政再建には有効かも知れない.しかし,それによって生じる問題は日本の医療そのものを大きく退化させる危険性が極めて高い.供給抑制は医師・病院の地位を高めますから,現時点ですでに医師である人々からは井堀先生の意図とは全く別の理由で支持されかなねい……

 財政再建の名義で,医師・病院経営者の独占力向上政策が行われるとしたら,これほどに「ヤヴァイ」ものはないでしょう.記事は,

供給抑制政策のデメリットだけでなく,メリットにも留意すべきである.

と結ばれていますが,メリットは財政負担の減少だけ……しかもそれは他の方法*3でも十分に達成でき,デメリットははかり知れません.仮に財政再建が必要だとしても,財政再建効果があるならばなんでもやるべきだというわけではないという点にご留意願いたいところです.

*1:事前ではなく,事後判定さえ可能なら実施可能な点もよい.

*2:20年ほど前に祖母が入院したとき,地方の病院でかなり露骨に「お礼」を求められたので両親が憤慨していました.

*3:低緊急性患者に対する負担増,記事でも指摘されている救急車の救急以外目的での利用への課金など