クルーグマンがわかっていないこと

 クルーグマンのTV出演がyoutubeに落ちてました!#1と#2は戸越銀座で遊んでいるだけなんですが,冒頭のベビーシッターモデルの説明は思ったよりまとも.本編は#3と#4の与謝野大臣と吉川先生との対談です.
 定額給付金については割戻減税のようなものと理解しているのかもしれません.流動性制約家計が多いと思われる*1納税をしていない家計にも届くように無条件でまいていると言ったら評価は変わったのかなぁ.クルーグマンの重点は財政政策のようですが,いわゆる中立命*2は支持しているように感じます.
 にもかかわらず財政支出政策には積極的.どんなモデルが頭の中にあるのだろう.先月の『Voice』では「ホームタウンである伝統的ケインズ主義への回帰」みたいに書きましたが,(減税と財政支出を区別しているところから見ると)どうもそうではないのかもしれない.Krugmanの頭の中にはインフォーマルにはモデルが組みあがりつつあるのかな.天才の頭の中をみてみたい.
 

「私なら前例のないレベルの金融政策を積極的に進めます」
「日本にはドイツにはない大きな利点があります.ユーロに縛られた国よりも自由な(金融)政策が取れることです」
「いえいえいくらでも余地は残っています」
「あらゆるボタンを押してみることが重要なんです」


 しかしTVは金融政策っておそらく銀行規制か何かだと思っていると思われorz
 以下,youtubeへのリンク.






 んで,懸案のクルーグマンが「わかってない」点は何か.
 それは日本のお役所様のすごさです.何らかの外圧で日本銀行がインフレーションターゲットを宣言したとしても,その目標インフレはけして達成されないでしょう.上からどんな命令が降りてきてもやりたくない政策はやらず,「やってみたけどダメでした」と言うことになりかねない.
 その好例としてあげたのが3月のエントリ(米英リフレ政策発動と日本の現状 米英リフレ政策発動と日本の現状です.このblogにしては多くの人に興味をもっていただけたようなのでさかのぼって計算したところ,

2002年から2006年にかけて「長期国債保有高は増えているが,「満期まで1年以上の債券」の保有高はほぼ横ばい


ということがわかりました*3.ゼロ金利近傍では短期債とマネーは無差別ですから,短期債を買っても意味はない……要するにマネーの追加供給はしていなかったみたいなんです.
 またもクルーグマンインタビューより……というかケインズの孫引きですが,

「私たちには強力なエンジンがあるけれど,ひとつ異物があって動かない」


 日本銀行は世論動向(インフレ嫌い等)や短期的な世間からの評判を過度に気にしすぎる傾向があるように思われます.
 その意味で世論がインフレの重要性を理解しない限り,日本銀行が積極的なインフレ政策を推進することはないかもしれない.エンジンを止めている「たった一つの異物」が「世論」だとしたら! 財政再建至上主義のような最近出てきた話とは異なり,こちはら生来の気質に絡む問題のようですから……景気回復の前にはとんでもない怪物が立ちはだかっているということになります.
 地道な宣伝活動,真摯な説得によって「聞いて"もらう"」ように努力しなければなりません*4





P.S.
戸越銀座が舞台ですからどうせだったら戸越銀次郎にも出演して欲しかったです♪(戸越銀次郎のマネージャー(?)さんとはオールニートなどでちょくちょくご一緒しているもんで)

P.S.2.
浜田宏一先生が『Voice』9月号で本日のブログに言及されています.浜田先生には正確なグラフを見せたのですが,今見返すと本エントリでは正確な数字を挙げていませんでした.これではせっかく引用いただいたのに,それを見られていらした方が失望されるでしょうから,以下に「日銀は長期国債保有高を増やしていない」証拠を掲載しておきます.「名目上の長期債保有高」が「2年債以上(という名前で発行されているもの)」の保有高,「事実上の保有高」の方はそのうち満期まで1年以上残っているものです.

*1:僕は実はそうでもないんじゃないかと思っている.それにHand to Mouth家計の比率は日本は低いという研究もあるし,やや拡張したモデルを僕自身が推計しても1割程だし.

*2:一時的な減税は貯蓄されて終わり

*3:詳しい数字・グラフはどこかに書こうと思っています.

*4:先日湯浅誠氏と対談していて感じたこと.