『経済成長って何で必要なんだろう』のamazon書評

 日経ビジネスオンラインで経済学の入り口 or 入り口の手前の話をしてみました.

 毎度の芹沢一也氏仕切りなので,その効果あってかamazonで『経済成長って何で必要なんだろう』がいきなり品切れになりました(お盆なので配本が遅いだけかもしれませんが^^).そこであらためてアマゾンレビューを見てみると……


「うっわ〜.見事に評価がバラバラ」


レビュー数はまだ少ないですが☆2から☆5まで1人づつ.もっとも,著者の一人としては納得.だって元々論争をはじめるとっかかりの本ですから.
 そのなかでなかなかおもしろかった書評が一番評価が低い,以下の書評.


地球の有限性を、視野に入れていない, 2009/7/28
By hope

1)地球環境・資源が有限であるという認識が欠如しているのではないか?
2)しかも、60年代からこれまでのようにG8のような数カ国だけが、他国を「大消費地」=マーケットと位置づけて経済成長を謳歌してきた時代ではないことの認識も見られない。

 上記2点を視野にいれたうえでも、「2パーセント台の”右肩上がり”を維持していく」というのだろうか。
 むしろ、右肩下がりでもどのように持続していけるのか?ということに向き合わなければならないのが「今」なのではないか?
 あとは「コミュニティ」への冷笑的態度は、どうしてなのだろう?
 そこに暮らす人たちの声を反映したビジネスを立ち上げることで、雇用機会が生まれたり、新しい技術の萌芽になっていくと思うのだが、情報の循環の基盤としての人のつながりというものをあまりにも捨象しすぎているきらいがあります。
 コミュニティについての言説は、「昔に帰れ」的な懐古趣味ばかりではないと思いますが。


 本書をすでに読んでくださった方,そしてそのごく一部でも納得・賛同いただけた方が周りの誰かに語り始めたとき,第一にぶつかるのが以上のようなテンプレ的な経済成長批判かと思います.そこで,その際の「反論テンプレ」も用意しておきましょう.

  • 地球の有限性がどうのこうの

 少なからぬ人は経済成長というと量的な拡大ばかり想起してしまうようです.例えば鉄鋼生産が倍になるとか自動車生産台数がX%伸びるとかそういうの.この種の成長余地は先進国内では少ない.同じような商品を大量生産してもうける……なんてビジネスモデルは先進国ではすでに30年前におわっています.
 経済成長=付加価値生産の拡大であることを忘れてはいけません.先進国の経済成長は「給料が2倍になって米を2倍食うようになる」という成長ではない.「マクドナルドではなく自然食レストランでランチを食べるようになる」「パイプ椅子じゃなくてディーティカなりなんなりの椅子に座るようになる」……あくまで質の向上です.パイプ椅子から腰痛にいい椅子に変えた,PCの利便性が上がったことによって石油消費が増えたりCO2が排出されたりしません.また,いままでより少ないエネルギーで同じ商品を生産できるようになると(同じ価格で売れるなら)付加価値部分が大きくなって付加価値は成長(つまりは経済成長)します.
 もちろんエネルギー消費量が全く増えないわけでもないでしょうが,百年・二百年のスパンで考えるならあんまりまじめに考えてもしょうがない問題です.環境云々について心配した方がいいのは途上国の成長の問題でしょう(これでさえ僕は少々騒ぎすぎだと思う).むしろ小飼弾氏的な成長の限界(全員が豊かになりすぎて経済成長が止まる)の方があり得るくらいなんではないかと思います.

  • 他国を「大消費地」=マーケットと位置づけて経済成長

 これは全然データの裏付けがない印象論.貿易依存度をちゃんと調べないと行けない.基本的に日米の経済は国内需要が9割以上というきわめて閉鎖的な経済です.また英・西欧は貿易依存度こそ高いもののそのかなりの部分はヨーロッパ内での(国境を越えた)取引だったりする.ちなみに他国(というか中国)をマーケットと位置づける(というか位置づけられる)ようになったのはここ10年の話です.

  • 右肩下がりでもどのように持続していけるのか

 なぜ右肩下がりじゃなきゃいけないのかな?
 多くの国際機関・シンクタンクの予想では再来年には日本以外の先進国は2%成長に回帰すると予想されているのになぜ日本だけゼロ成長やマイナス成長に耐えなければいけないのでしょう? 
 このように書くと第一の反論は人口が減少に転じるからというものになるでしょうが……人口はあまり関係がありません.本書で繰り返し言及する2%成長は「一人当たりGDP」の2%成長の話です.むしろ一人当たりの資本装備率が上がる分,経済成長には追い風が吹いているとさえ言えます.あくまでまともな競争政策・安定化政策・再分配政策あっての話ですが.

  • 「コミュニティ」への冷笑的態度

 これもよく言われるけれども僕個人としては心外.昔から地元団体から学校行事,OB会,NPOまで僕はわりとコミュニティ活動の参加頻度高いし,すごく好きなんだけどなぁ.僕が嫌いなのは他人にコミュニティへの帰属やコミュニティの称揚を押しつける態度.その意味で「コミュニティ」に冷笑的なんではなくて,「コミュニティの強要(?)」に冷笑(or嘲笑)的というわけ.


 仕事の合間にさっと書いただけなので少々荒っぽい話になってしまいましたが,コメント等で「反論テンプレ」のブラッシュアップにご協力いただければ幸いです.

経済成長って何で必要なんだろう? (SYNODOS READINGS)

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