『陰謀の日本中世史』(呉座勇一,角川新書)

 

 真田モノ(【おまけ2】参照)を立て続けに読んでいたら,歴史は全部陰謀で動いてるような気分になってきたので解毒剤を。。。と思っていたら,そのものズバリの,しかも大ベストセラー学者の呉座先生の本が出てました. 

陰謀の日本中世史 (角川新書)

陰謀の日本中世史 (角川新書)

 

  前著『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』 (中公新書)とは異なり,非常に読みやすい本です.歴史に関する陰謀論といえば,本能寺と関ヶ原が中心かと思いきや,保元・平治の乱から北条家の得宗体制成立,そして観応の擾乱応仁の乱まで……かくも長い時代を取り扱いつつ,

・各論点の簡単なおさらいと教科書的な解釈

陰謀論/ちょっと陰謀論っぽい仮説/比較的合意を得ている仮説を整理して紹介

するという構成になっているので,ちょっと日本史忘れつつあるという人でも楽しめる内容で,氏の書き手としての能力の高さが伺われますね.

 このような詳細で簡潔な整理を可能にしているのは,同書が個別の陰謀論を批判することを目的にしているのではなく,終章の「陰謀論はなぜ人気があるのか?*1」に書かれた原理原則を軸にして事象を整理しているからだろう.手っ取り早く情報収集をしたければ,終章を読んでから第一章に戻ると理解が早いと思われる.

 陰謀論によくみられるいくつかの「型」は,歴史ものに限定せず,あぁこういう風に考えがちだよねと思われるものが多い.例えば「事件で一番得をした人間を黒幕だと考える」とか「被害者が本当は加害者だったのだとして説を組み立てる」とかね*2.冒頭に書いてある通り,筆者の陰謀論愛も感じられて,陰謀だけど,さわやかさもある読後感の一冊.

 

 【おまけ1】

 本書の四・五章は,もう一つの読み方として……『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』 (中公新書)『観応の擾乱』(中公新書)を読む前の予習用に好適.この二冊読みながら,「あれ?その人だれだ?」と時々読むのが止まってしまった僕としては・・・『陰謀』を先に読んでおきたかったなぁ。。。 大ベストセラー二冊を読みこなせなかったという人は,『陰謀』読んでからだとかなり理解しやすくなるので,リトライしてみては?

 

【おまけ2】

 幡大介の真田合戦記シリーズ.武田義信が粛清されたあたりで止まってしまっている(1年ほど新刊が出ていない)ので大変残念。。。真田幸隆(幸綱)にすごい巻数を割いた意欲作♪ 幡大介氏好きな書き手なので,氏そのものについてまとまった素人感想を書きたいな.

真田合戦記: 幸綱躍進篇 (徳間時代小説文庫)

真田合戦記: 幸綱躍進篇 (徳間時代小説文庫)

 

 

*1:そういえば,過日『Science』に出たhttp://science.sciencemag.org/content/359/6380/1146.fullの話に通じるかもしれない.

*2:本書ではこれらをミステリにありがちな手法と書いてますが,社会派じゃないいわゆるミステリ好きとしては,ありがちなミスリーディングネタと感じてしまいます(笑