長期フィリップス曲線は垂直ではない!?

 昨日紹介したIMFのペーパーに対するクルーグマンの感想.ブランシャールの話では手ぬるい! だって長期にもフィリップス曲線垂直じゃないもん!というエントリ.インフレが相対価格調整を容易にすると言うのは重要な論点.次はAkerlof, Dickens, and Perry紹介せんといかんね.

 抄訳を載せようと思ったら,まとめるのめんどくさくてほぼ全訳になっちゃった…….強調は飯田による.

The Case For Higher Inflation
↑元の記事はこちら


 オリヴィエ・ブランシャール(MIT教授,IMFチーフエコノミスト)は興味深く,重要な論文を公表した.同論文では経済危機がマクロ経済政策の分析をどう変容させたか,そして危機によってマクロ経済学はどう変わるべきかを述べている.中でも最も驚くべき結論は「各国中央銀行は目標インフレ率をあまりにも低く設定しすぎていた」という点であろう.

 ブランシャール氏は「高い平均インフレ率とそれによる高い名目金利は大幅な政策金利の引き下げを可能にする.それによってGDPの落ち込みや財政の悪化を軽減することができるのだ.」と主張する.厳密には私(Krugman)はブランシャール氏がこのような主張をすることに別に驚きはしない.しかし,IMFがこの状況でチーフエコノミストにこのような発言をさせることには驚いた.なにはともあれ大賛成だ.

 ただし,アカロフらが熱心に主張する,高インフレの別の効能についても言及しておきたい.たとえ長期においても名目賃金を下げるのは難しい.ごく低いインフレ率の元では正しい相対賃金の調整(訳注:失業を発生させないような賃金調整)のためにはかなりの数の労働者の賃下げが必要になる.したがって,ちょっと高いインフレ率は短期的な効果だけではなく,かなりの期間において低い失業率を達成することになるのだ

 別の言い方をするなら,長期フィリップス曲線は低インフレ領域においては垂直ではないのである

 これはEU圏にとって特に重要なことだ.何度も記事に書いたように2000年から2008年にかけて,ヨーロッパの中心・周辺の資本輸入国内でインフレ率はかなりばらついた.

 このようなばらつきが減ってきたのは確かだ.5年から10年の間に生じるインフレ率の収束がは,ヨーロッパ全体での低インフレは過大評価されている(訳注:EUROと旧貨幣の交換比で自国通貨高な交換レートを選択した)国にとって大幅なデフレをもたらす.

 この困難はEU圏が2%ではなく4%の目標インフレ率を設定すればかなり緩和される.

 まずは穏やかで高率のインフレを目指そう!……でもバーナンキは,公式の席では,どうも(4%インフレ案に)賛成じゃないみたい.トリシェ(ECB総裁)はなんて言うのかなぁ…….


P.S.
ちなみに長期フィリップス曲線の傾きについて飯田の意見は「いまのとこわからん」です.自分がやってきたモデルの特性としてはブランシャールの見解に近いし,私のゴーストはアカロフクルーグマンが正しいと言っている.ポイントはインフレは相対価格調整に中立か,有用か……これはかなり大きなテーマである.