君たちはどう生きるか【予備的考察】

 コペル君はでてきませんので,あしからず.


 『国家の品格』(藤原正彦asin:4106101416),『他人を見下す若者たち』(速水敏彦,asin:4061498274),『下流社会』(三浦展asin:4334033210)に代表される若者論の流行は,日本にとって支配的な世論がどうも35歳以下にとってきわめて厳しいものになってきているのをうかがわせます*1.まずはこのような言説が供給され,需要されるのはなぜかという点から考えていきましょう.


 団塊の世代,またはややひろめに現在「50歳から65歳」の年齢層は今後の社会においてきわめて厳しいポジションにおかれることと思われます.

 現在70歳以上.つまり戦中に少年・青年期をおくった年齢層に対しては「戦争,または戦後の混乱期であれだけ大変な思いをした世代なんだから,後の世代がそれを助けるのは当然だ」という「空気」の形成は容易です.ひらったくいうと「あんだけ大変な時代を生きたんだから,ちょっとくらいいい思いしてもバチはあたんないよね」という惻隠の情ですね(笑)このように現時点では「お年寄りは大切にしよう」という「常識」を支える理由が明確です.
 団塊以降の世代は物心ついた頃には高度成長期,大学・短大進学率は20%を越え,高卒は一般化し,さらに雇用市場では経済成長に支えられて安定的な雇用システムに依存することが可能でした.そんななかで,彼らが少年時代(1960年代)の少年による強姦は人口比に直しても現在の10倍*2,殺人は現在の3倍,高学歴層も大学の講義なんて出ないで造反有理!だった世代です.
 彼らが高齢者になったときには,このままでは「お年寄りを大切にしよう」を支える理由がいまひとつわからなくなってしまうでしょう.ともすると,1973〜1983年生まれあたりの世代に「最近の年寄りは苦労を知らない.わしらが若かった頃には就職戦線は地獄のようで,バイトもろくなもんがなかった」といわれてしまいかねません.
 このままでは困ります.誰しも若者時代は「若者が一番偉い」,そして年をとったら「老人が一番偉い」とされる世の中が望ましいものです.しかし,団塊〜ポスト団塊世代を尊敬する積極的理由は発見困難です.にもかかわらず,「お年寄りを大切にする」という行動様式を維持するためには,

  • 「お年寄りを大切にする」のは絶対的な原理で理屈なんかない!理由を求める方がおかしい
  • 今の若者はどうしょうもない.相対的にお年寄りの方が偉い

のどちらかの思考法を戦略的に流通させる必要があります.冒頭にあげた新書は多くの団塊〜ポスト団塊世代がなんとなく必要だと思っている方針を活字化したものなわけですから,これは流行して当然ということになるでしょう.


 お年寄りという意味ではなく「ベテラン・長上を敬え」というのは現在でも正しい行動原理です.その理由は……彼らは人事権を持っているからです.そして,彼らはそろそろ「お年寄り」になろうとしています.したがって,U40の年齢層にとって,上記の思考法への賛意を示しておくことは重要な戦略なのです.


 このような思考から私たち,特に1973〜1983年生まれの【忘れられた十年の世代】が学ぶべきことはなんでしょう.バブルの恩恵にはあずかれず,人口減少社会の到来による人材不足には年をとりすぎていた世代にとり,このままでは若者時代は中高年層に支配され,壮年期以降は若者にやりたい放題にやられることになりかねません.忘れられた十年世代にとって世の中は不満だらけです.

 私の尊敬する少佐*3の台詞に

世の中に不満があるなら自分を変えろ,それがいやなら目をふさぎ口をつぐんで孤独に暮らせ……

というものがあります.

 君たち……というか私たち(黙って耐える組は除く)はどう自分を変えるべきなのでしょうか.哲学的な問題はさておき,戦略的方針について考えていきましょう.

*1:ただし前2者は本気っぽいですが,3つめは以下にお話しするマーケティングの産物のように思われます.

*2:強姦は親告がきわめて少なかったため実行犯の年齢がわかる検挙数はかなり過小評価されています.

*3:ジャック・バルバロッサでもキャスバル・レム・ダイクンでもない方