ベーカム2冊

 毎日新聞でご一緒させていただく山森先生といえばベーシック・インカム(ベーカム)ですよ.すでに傾倒いただいてから半月たってしまいましたが……奇しくも同じ日にベーカムに関する本をいただきました.

小飼弾『働かざるもの飢えるべからず−ベーシックインカムと社会相続で作り出す「痛くない社会」』(サンガ)

 まずは小飼本.ビジネスや経済成長まで多岐にわたる内容ですが,再分配に関する部分をざっくりとまとめると,

これに累進強化を入れるともう全面的に賛成.さらに法人税廃止論に関しても,あくまで所得税の捕捉効率向上とセットで主張しているところまで賛成.ベーカムの良さをシステムのシンプルさに求めている点も非常に共感が持てます.
 年間80兆円の相続財産のうち,課税はたったの1.5兆円です.相続禁止……はあまりにもあまりにですが,配偶者相続以外に一律で20%,億を超える財産について50%ほどを上限とする多少の累進をみとめるだけで10兆以上の財源*1が出来ることにもっと注目しなくてはいけません.相続増税で海外へ資本逃亡という話がありますが,相続が消費活動であることを考えるとそれほどおかしな数字ではないでしょう.
 ちなみに,井堀利宏先生も『誰から取り、誰に与えるか―格差と再分配の政治経済学』(東洋経済新報社)相続税の課税ベースを広げるべきとの主張をされています.井堀先生の提案は一律10%
ですが,僕はもう少し高くても良いと思う.
 贈与税のデザインなどちょっと?なところもあるけど,それは経済屋ではないのでしょうがないかと.小飼さんとガチで経済論争をしてみたくなりました.

働かざるもの、飢えるべからず。

働かざるもの、飢えるべからず。

橘木俊詔山森亮『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか』(人文書院

 橘木先生は現行の社会保障制度の修正を,山森先生は抜本的再構築をというのが対立点ですが,両者の目的とするところが近いので和気藹々.山森先生は「得手不得手がある」とした上で理念面でのベーシックインカム論を中心に言論活動を提案されるようなので・・・・・・政策的なインプリメンテーションはあっしの仕事?って思ってしまいます.社会保障論専門じゃないからだれか助けてくれる人いないかなぁ.
 ただし,橘木先生がちょっと山森先生からの経済学批判について譲りすぎな印象.というかケインジアンvs新古典派の二分法にちょっとこだわりすぎな気がします.カッコ付の「新自由主義」ではない現代の主流派の再分配研究の人を混ぜて欲しかった.鈴木亘先生とかね.
 もうひとつの不満点はふたりがともに世代間再分配に無頓着なところ.税財源によるカバー率の広い再分配は僕も目指すところではあるけど,その前提は現行の社会保障システムにおける「貧困者若年層から富裕高齢層への逆再分配」の解決・緩和だと思う.

貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか

貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか

 

*1:20兆ではないのは配偶者相続があるから.これについては今まで通り免除でしょう.