福島第一原発観光地化計画の経済的側面(は無視しろな話)

 私は街おこしの専門家でも,都市計画の専門家でも何でも無いので,ここに首を突っ込むのは辞めておこうと思ったんだけどなんか書きたくなっちゃったので感想メモ.議論のきっかけになった本『福島第一原発観光地化計画』は凄くビジュアルが綺麗だし,役に立つ情報も多い.この本を読んで,ひとまず福島第一を見に行ってみようという動きが高まるのは凄く望ましいコトだと思う.


福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2


でもね.箱物を建てることを計画の中心にするのは,特にあたかも経済的な合理性があるかのような装いをもって箱物を作ろうとするのはホントやめておいた方が良い.

広島が被爆経験を平和都市の礎として、それによって「ヒロシマ」を希望の言葉に変えたように、福島もこの事故の経験をプラスに転化し、「フクシマ」を希望の言葉に変えなければならない。ぼくが言っているのはシンプルにそのことに尽きるのだが、それすら理解されないのは本当に苦しい状況だ。

@hazuma 2013-11-26 12:43:09

ならばなおさら.経済的な話は無視したほうがよい.

金はかかるけど必要なもんは必要だ

と言い切るべきだ.「あたかも経済的に合理的であるかのような装い」をすると,このプロジェクト自体が非常にうさん臭い物になってしまいかねないから.
 大変ありがたいことに,一昨年あたりから地方で公演をさせていただくことが増え,それがきっかけで知り合いになった街おこしの当事者・専門家の方も多い.そこからの聞きかじりの情報でしかないんだけど……街おこしの最悪のパターンを戯画化すると,

  • 補助金で箱物施設を建てる(もっと悪いのは補助金+融資のケース)
  • 補助金土下座外交でテナントもそこそこ入る
  • はじめの数年は行政からプロモーションの予算がつくし,メディアも注目するのでそこそこ盛況
  • 客入りは頭打ち,一部(行政とのつきあい上しぶしぶ出店した大手など)テナントが退出
  • テナントがいないのだから誰も来ない.誰も来ないからさらにテナント退出
  • 莫大な(そして年々増加する)維持費と(場合によっては)有利子負債を自治体が負担し続ける
  • (どこかで耐えられなくなって破綻)

というやつ.ディベロッパーは建設費を支払ってもらえれば文句はない*1.金融業者は最後には行政がケツを拭いてくれる優良債権を得る.コンサルタント様や金融業者様は完成したら初期の数年間の「盛況」という「実績」をもって次の焼き畑へ向かう.街おこしをしたいところは無数にあるからこの焼き畑農業の候補地には事欠かないだろう.地元の人以外にとっては一石三鳥の企画というわけ.
 その一方で,上手くいってるっぽい街おこしの特徴は,

  • 地元から上がってきた「ちょっと○○が足りない」というニーズを満たす
  • 小さくはじめて大きく育てる

という視点をもっていると感じる.福島第一の観光地化を経済的な観点から,持続的な経済活動として構想するならば,このような視点が必要なんでは無かろうか.ちなみに,いきなり大規模な設備やハイスペックな技術を外から持ってきても経済活動は活性化しないよ〜ってな話については,


スモール イズ ビューティフル (講談社学術文庫)

スモール イズ ビューティフル (講談社学術文庫)


って古典的な本がある.途上国と一緒にすんなよって思うかもしれないけど,観光産業という点で福島県当該地域と有名観光地はそのくらい凄い差があると思うんだ.



 そんななかで,福島第一原発観光地化計画についての議論で,

の木曽氏の話はtwitterらしく行ったり来たりしちゃってるけど,なんとなく問題意識は近い気もする(特に後半).ただ,川崎については別の教訓もあるんじゃないかと思うんだ.

産業観光の失敗例:代表格として挙げられるのが川崎の「大人の社会見学」ツアーかな……中略……が、結果論として行政の観光振興施策としては失敗に終わったという評価が主流。多くの観光客は首都圏の主要駅からバスで直接工場に乗り入れるワケさ。……中略……川崎の街そのものに落ちる消費なんて皆無なんだよね。……中略……ただその後、川崎の産業振興は「工場見学」から「工場夜景」へとその「売り」をグッとシフトした。夜景ってのは夜の観光資源だから宿泊が前提となる。また、ただ工場見学をしに来る層と違って、個人客が主体になるのでバスでダーっと来て、ダーっと去って行く形にはなりにくい。すなわち、街に観光消費が落ちる形の振興政策に徐々に移行することが出来て、何とか面目躍如って状態まで至ったのが川崎の産業観光の現状。
(@takashikisoさんのtwitterでの発言から抜粋)

 川崎の失敗は「成功のために必要な失敗」だったんじゃ無いかと思うんだ.川崎には全然金が落ちないバスツアーのおかげで,「大人の社会科見学」へのニーズの大きさ,顧客傾向を知ることが出来たとも考えられる.最初から夜景を売りにプロモーション企画してたら上手くいったかどうか疑問.観光地では無いところを観光地にするためには,まずニーズ動向を十分把握し,さらに観光慣れしないといけない.
 さて,福島を維持可能な形で観光地化するために必要なステップもこれに似てるんじゃないかな.まずはニーズの把握.その大きさと顧客特性にあわせた施設計画,その途上で地域自体が観光対象であることになれること.そのためには,いわき・郡山・福島発のバスツアーをプロモートすることから始める必要があるんじゃないだろうか.誰が福島第一を学ぶツアーに参加するのか*2.その人数はどのくらいか.これがわかってはじめて必要な施設,その維持可能な規模が分かる.これが繰り返されて福島は徐々に観光地に「なる」.


 実ははじめに『福一』本を読んだとき,失礼ながら,まさか本気だとは思わなかったんだ(だって,16万平米,総工費500億円だもん).被災地を盛り上げよう,事故の記憶を風化させないためにがんばろうというアピールイベントのおまけコンテンツとしてゲートビレッジの話とかをしているんだと思ってた.なんていうか昔のモーターショーのコンセプトカー*3とか昭和の新聞の20XX年の世界みたいな.
 比較的成功している,同書の中でも成功例としている,水俣市の宿泊客数は年間4万人*4.温泉あって,海岸あって,自然林あって,さらに「九州周遊の修学旅行のなかの1泊」に選びやすい立地なのにこのくらい*5.残念ながら.
 さらに人的資源についても,それなりに観光地があって観光客も来ていたところとそうではないところでは全く事情が違う点にも注意が必要.「観光客を迎える」って誰でも出来ることじゃないんだよ.これは福島に限らず,被災地に行った人は外客を迎えるための人的インフラ――要は現地の業者・人の「慣れ」が圧倒的に足りないことにきづいたんじゃないかな.


 経済的な側面を重視するならやるべきコトは原発へのバスツアー等被災地への観光客の掘り起こし,徐々に地域を観光客というものに慣れ親しんでもらうこと,そしてその後に「もうちょっと○○が必要だ」という地元の声を拾うこと……であって箱物を建てることではない.バスツアーが多すぎて裁ききれなくなったらちょっとした施設が必要になるだろうし,それでも無理なくらい観光客が多くなり,地場の観光業者が増えてきたらいよいよ本格的な箱物が必要になるだろう.そうなれば公的資金は最小限で良い(喜んで出資・展開する企業が出てくるだろう).
 そして箱物を建てたいなら経済的な問題とは切り離すこと.そしてその維持費用をしっかりと公的に負担していくべきだという合意を広めることだと思うなぁ.経済的な効果なんてその後に,偶然ついてくればそれでイイくらいに構えてさ.

*1:メンテナンスも請け負えればさらによし

*2:ここ重要.ショッピングモールがあってリゾート設備があると嬉しいと考えそうなお客さんが多いのか,そうでない人が多いのか.社会科見学・修学旅行生なのか個人旅行なのかなど.

*3:どうでもいいけど,最近のモーターのコンセプトカーは割と現実味がありすぎてつまんないのが多いぞ!そしてコンセプトカー少ないぞ!!

*4:水俣・芦北地区全体でも11万人

*5:いや.これはすごいことなんだよ! だから成功例なんだ.あと同地区は日帰り客数は伸びているらしいしね.