討論者ラッシュ

なんだかこの秋の学会シーズンは討論者ばかりやってる(そして自分の発表はゼロorz).日経学会で2本,Sopia Sympoで1本,んで金融学会で1本.しかも腰を据えて読まなければならない論文が多くて大変でした(とさりげなく自分の研究が進まない言い訳をしてみるテスト).

日経学会と金融学会はそれぞれ1990年代,1920-30年代の経済停滞に関連したものだったのですが討論を整理しているなかでふと気づいたことを少々.実体経済の変動は供給・需要のどちらかが主役となって発生します.

ある経済変動が供給主導で生じたものかどうかを確かめるためには,生産技術進歩率の変動(TFPの変動ではない)を調べればよい.では,需要主導であることを確かめるにはどうすればよいか……これはなかなか難しいです.単純にはマクロ経済政策が効くか否かでそれを確認できる(財政・金融政策で経済が悪化したり改善したりするなら需要主導だ)とおもわれるかもしれませんが……

これは半分正しく,半分間違えています.政府支出やベースマネーが実質産出量をGranger Cause*1するというのは「マクロ経済政策が効く」ということの傍証にはなり得ても,必要でも十分でもないためです.

代表的な政策波及効果の理論に,「Philips Curve経由」「Traditional Debt Deflation」「現代的なDebt Deflation」がありますが,このなかでマクロ政策が実質産出量をGranger Causeするのは前二者のみです.するとある経済変動が現代的なDebt Deflationを主因とする場合は「マクロ政策と実体経済」にGranger Causalityはない.これってけっこう重要なことでして……たいていの人にとって因果関係があるか否かはGranger Causeがあるかないかだと思います.すると「ある経済停滞や回復」が現代的なDebt Deflationに基づく需要主導の経済変動であることを経済学者以外に説明するのはものすごく難しい……

因果とグレンジャー因果の違い,グレンジャー因果は因果関係の必要条件でも十分条件でもないことをすんなり説明する方法ってないですかね.

*1:時間的にAがBに先行することを「A→Bというグレンジャー的な因果関係がある」といいます.グレンジャー因果があると単純にデータを眺めたときに「あぁ確かにそう言う因果関係がありそうだなぁ」という印象をうけます.「財政支出をするとしばらくして景気が良くなる」というのをfancyに言うと「財政政策から実体経済へのグレンジャーがある」となるわけ.