量的緩和解除

いまさらながら,量的緩和解除についてコメントを.


解除の前に,まず量的緩和の意味について考えてみましょう.量的緩和政策によって,金融機関が大量の短期資金を抱えるようになっても,それが貸出に結びつくわけではないのだから意味がないという考え方がしばしば喧伝されますが,これが誤解であるのはここを見ている多くの人が既にご存じのことと思います.

量的緩和政策の意味は「これだけ短期資金供給してるんだからしばらくは短期金利を上昇させるようなことにはならないぞ〜」という一種のコミットメントです.「(金利の意味での)金融引締が遠い」ことをみなに知らしめるのが大量のベースマネー供給の意味.

したがって,量的緩和解除は「(中央銀行がコントロールできる)短期金利上昇がそう遠くない」ことを知らせることになる.つまり,将来の金融引締のアナウンスメントになるわけです.だから,金融緩和重視派は量的緩和政策に大抵反対だった.

しかし,このように説明すると重要なのは「量的緩和政策」そのものではなく,「継続的金融緩和へのコミットメント=そうそう引締には転じないよという宣言」だと言うことが分かります.だからこそ,量的緩和の出口としてインフレーションターゲットが必要であると言う主張が行われるのです.


さて,今回の緩和解除に対して金融緩和を重視する論者の意見がわかれているのは,量的緩和解除と同時に発表された新たな金融政策運営の枠組みの導入についてに起因します.

CPIで前年同月比0〜2%を「中長期的な物価安定の理解」として,金融政策態度を決定する指針としようというこの枠組みは一見インフレーションターゲットと同じように感じられます.

もし,この「中長期的な物価安定の理解」を「CPIでのインフレ率が2%になりそうになるまで0金利政策は継続される」という日本銀行の態度表明だとしたならば,これは継続的金融緩和姿勢の維持が示されたという意味で,望ましい.知人の証券マンはそういう認識みたいです.一方,もしかつての0金利解除時のように「CPIでのインフレ率が0%を超えたら金融緩和は終わり」としたら,デフレ目標制度です……ヤヴァスギ.

今回の新たな枠組みでは……日本銀行,政策決定会合の基本方針がこのいずれであるのかわからないという不確実性があります.ルール型の政策の一番の利点である将来予想の安定化を考慮しない発表だという点で,たとえあとから前者の認識が正しいことがわかっても,かなりの欠点だと思います.

それにしても,"an understanding of medium- to long-term price stability"って全く意味分からん新語ですよね.素直にインフレ目標値/参照値って言えばいいのに.政治的な面子+わかりにくい定義+いざ守れなかったときに「あれは目標ではない」と言いやすい状況をつくること……これらはいずれも「新たな金融政策運営の枠組み」の実効性を低下させます(つまりは,民間主体が日銀の金融緩和の継続性を疑問視しやすい環境を作る).

もひとつつけくわえると,白川推計で0.8%あったCPIの上方バイアスが,品質調整をいれたら,いきなり0になっているわけがないので,やはり下限はできれば1%,せめて大きめにみつもったバイアスである0.8%くらいにすべきだったと思われます.公式説明「念的には、計測誤差(バイアス)のない物価指数でみて変化率がゼロ%の状態である。現状、わが国の消費者物価指数のバイアスは大きくないとみられる。」はなにも説明していない……どんなにきっちりやっても多少は残るという現実+糊代を考慮するということをなんでそんなにかたくなに否定するんだろう.