退職金の割引計算

 先日のエントリでは大学教員の生涯賃金試算を行いました.しかし,優秀な先生方のもう一つの悩みどころは移籍の問題でしょう.
 First Jobが賃金・研究環境・見栄えetc.について十分満足できるものだというラッキーな人はほとんどいないと思います.また30代前半であれば,よりよい待遇を求めての移籍にはそれほど抵抗がないでしょう.問題は40歳近く,またはそれ以上の年齢になってからの移籍の問題です.たいていの場合,移籍は金銭的には「損」です……これははっきりしている.では,どれだけ損なのでしょう.
 そこで必要になるのは割引価値の考え方です*1


 ここでも,ふたたび上の中くらいの給与の私大間で移籍するケースを考えます.


 先日のエントリによると,35年65歳での退職金は4500万円です.簡単のためにこれを30歳時点での価値に換算しましょう.使用する割引率は3.7%とします*2.すると,65歳定年時の退職金の30歳時点での価値は1260万円となります.
 一方,40歳で一度移籍し,65歳で定年を迎える場合を考えます.40歳時点での基本給は50万円,勤続10年での退職金掛け率は10とします.すると,30歳時点価値は340万円.65歳の時の基本給は70万円,勤続25年で掛け率は35としてすると,その30歳時点価値は690万円……あわせて1070万円です.
 したがって,似たような待遇の大学に40歳で移籍することは……30歳の時に200万損をするのと(または40歳のときに約290万損をするのと)同じくらいの損!ということがわかりました.


 移籍するたびに1000万円の損……という話を良く聞きますが,ローンの繰り上げ返済を考慮するとまぁそこまでの損ではないみたいです.よりよい研究環境等が200万〜300万で買えるのが安いか高いかは僕にはわかりませんが…….
 それにしても『首都圏私大の賃金及び教育・研究・労働条件』は使える本だなぁ.主要私大のほとんどの賃金やら手当が書いてあります.組合とかにおいてあると思うので,皆さん是非とも入手しておくべきだと思います.

*1:よく考えたら,昨日の生涯賃金計算も22歳時点価値で計算しないと比較として変ですね.モデル給与表があればできるんですが,どなたかよいサイトをご存じないでしょうか?

*2:住宅ローンの35年固定金利.これは退職金の使い道の筆頭は住宅ローンの繰り上げ返済であろうと考えられるため