wikipediaが既存メディアを超える日

 今週の『週刊ダイヤモンド』は「寺・墓・葬儀にかかるカネ」特集.人口構成の面から言って葬儀ビジネスは有望……と思いきやそうでもないみたいですね.戒名の相場も載っていて面白い! ただ戒名というのは本来その人の生前の信仰に対して贈るもの……例えば僕の祖母は(信仰心はあまり無かったみたいですが)お寺のバザーや子供会の世話などに積極参加していたとのことで「浄誉……大姉」を無料でつけて貰いました.
 で今日の本題はお寺の話ではなく,池尾和人先生による「Data Focus」です.非伝統的な金融政策である「(1)量的緩和,(2)リスク資産の購入,(3)極端なインフレ目標」のうち,FRBは前二者に踏み切ったものの(3)には踏み込む気配はないし,そうすべきではないとのことです.
 わざわざ「極端な」とつける自体あまり感心しないですし,第一に「エッ」と思うのは池尾氏の筆致が「(1)(2)はよいけど(3)はダメ」という点でいわゆるリフレを貶していること.インタゲ支持者の多くは「とにかく大規模で継続的な金融緩和(継続的な非伝統的手法の採用)が必要で,その手段の一つがインタゲ」というだけで,?に拘泥する人ってあまり見たことがないです.論敵を矮小化して自身の勝利を誇るというのはあまり感心したことではないなぁ*1.継続的な非伝統的政策でインフレというのも僕は全く有りだと思いますけどね*2
 ここで気になるのは,続く

極端なインフレ目標を掲げて,人々の予想インフレ率を人為的に引き上げるという政策は,二〇〇〇年前後のわが国において,一部の論者から採用を求められたものである.ところが,その火付け役と思われていたクルーグマン自身が,そうした政策の有効性を今は明確に否定している.


でしょう.これwikiだったら「要出典」と言われてもしょうがない「自分解釈」では? 現にKrugmanの直近のblogでも,


クルーグマンブログ(A whiff of inflationary grapeshot)

 Greg Mankiwは「Fedは今次の経済聞きに今後数年にわたるインフレへのコミットで対応すべき」といっている.素晴らしいアイデアだ.僕もそう思うよ.でもちょっと待って.
 実は,僕は10年以上前に日本経済の問題をモデル化しようとしたときにGregとおなじ結論に達したんだよね.
  (中略)
 でもこの結論が理論的モデルからの型どおりの結論だって言うのに,むちゃくちゃでクレイジーだって言われたもんさ.
  (中略)
 アメリカでも同じような評判で迎えられるんじゃないかと心配だ.

とした上で,追記でSvensson提案の重要性にふれています.どこが「そうした政策の有効性を今は明確に否定」なんだろ.その意味で,池尾氏のエッセイは経済分野で既存メディアよりもwikiの方が上になった記念碑的な記事になるかもしれない.
 Krugmanの“credibly promise to be irresponsible”への言及はむしろ「金融緩和だけじゃ足りない! 財政も出せ!」という意味での「不十分論」でしょう.例えば,昨日の記事でも

金利のゼロ制約に言及した上で)これが米国経済が大規模な財政政策,非伝統的な金融政策,そして不況克服のために思いつくあらゆることを必要としている理由だ.いつものルールなんてもう通用しない.


と結んでいます.
 もっともクルーグマンがどういっているかだけが重要事項ってわけでもない.別に宗教運動じゃないですから.むしろMankiwはじめ続々と“credibly promise to be irresponsible”の必要性を訴える学者が増えている(矢野さんによるまとめ)ことにも注目が必要でしょう.
 しかし,Krugmanさえも「政治的困難」に触れるとは……マイルドインフレという良薬を飲む決心をして貰うのはかくも難しいことなんだなぁ.

*1:blogなどではこの戦略を使う人が少なくないようで,僕がblog間論争にあまり強くコミットしたくない理由でもある.

*2:ただしコミットメントフレームがないのが難点.だから結局は物価水準目標・インフレ目標・名目GDP目標・為替目標のどれかが容易だ.