1月25日朝日新聞朝刊「論壇時評」

 うちは朝日新聞とってない上にちょうど出張中だったので気づくのが遅れましたが,松原隆一郎氏が僕も参加した『VOICE』2月号(1月9日号)「大討論会:デフレ地獄脱出への処方箋」にかなりの紙幅で言及されています.けっこ〜誤解が多いので,すでに田中秀臣氏が事実誤認の指摘をされていますが,少々コメント.

飯田泰之は、グローバリズムのもとでは財政政策は金利を高め資本流入を招いて円高をもたらし、輸出を減らすため効果が弱いとするマンデル-フレミングの理論が日本に当てはまるとして、

 これは参加者の菊池英博さんも誤解されているようですが,僕の話は

  • 実証的に財政政策の効果は低下している
  • その理由としてはマンデル=フレミングモデルが考えられる

という話.マンデル=フレミングモデルは論旨の中心ではない.
 ちなみにもう一つの可能性は中立命題だけど,これは畑農先生のカルマン・フィルターによる研究やYano, Iida and Wago*1以来ちょっと日本経済への適応可能性をペンディング中.
 それにしても菊池氏といい,松原氏といい……

  • 複数の統計的な検証によって示され,複数の理論的根拠もある話

よりも

  • 直感・実感

の方が正しいと感じることが出来るメンタリティが僕にはどうもわからない.これに続く,

金利は高齢家計を直撃し、財政赤字の穴埋めに消費税率が引き上げられて、それでも財政悪化したため公共投資地方交付税交付金が削減された。輸出優遇の身代わりに国内と地方が痛めつけられた。筆者はこの見方に共鳴する

もダメ.財政の話はすでに田中先生が事実誤認を指摘済みなので,その他の点についてコメント.
 まずは,「低金利は高齢家計を直撃」から行こう.本blogの読者なら重々承知の通り……日本は名目金利こそ低かったけど,実質金利は高かった.金融資産を預貯金の形でもっていたならば,「デフレによる値下がり」という大きな利得を得ていたはずなわけ.なぜ「預貯金の購買力」が上昇すると「高齢家計を直撃」なのだろう.
 つづいて,00年代の日本は「輸出優遇」なんてしていない.そもそも,購買力平価水準(120円程度)の為替レートの達成を過度の円安と考えるのはおかしいし.ついでに製造業雇用への依存度が高い地方経済こそ円高だと一番困るんだけどなぁ.

*1:もともとは中立命題だろうとおもって,流動性制約家計比率をMCMC推計したんだけど……どうもうまくいかず,MCPFでも流動性制約家計の比率は上昇しているという結果になる.ただ,これは社会保障給付のデータ選択に依存しそうな感じなのでまだはっきりとはわからないけど.