少子化の問題は?
小田中先生と梶谷先生のblogで人口減少が「幸福」に与える影響について語られています.論点は『人口減少社会の設計』(松谷明彦・藤正巌,asin:4121016467)の小田中先生によるまとめ
- 人口が減る
- 労働力が不足する
- 投資が減る(非効率な投資から減るので)投資効率が上がる
- 生産性が上がる
- (投資は減っているので)労働分配率が上がる
- 単位時間あたり所得が増える
の解釈についてですが,(僕自身は読んでいないので同書自体の評価はできませんが)上の論点については少々混乱があるように感じます.
「非効率な投資から減るので投資効率が上がる」「生産性が上がる」というのはよくわからない.前者はそうかも知れないし,そうじゃないかもしれない.さらに,生産性については労働力が減少すれば資本の生産性はむしろ下がります.生産性というタームは「労働生産性」「資本生産性」「全要素生産性」「技術進歩率」を峻別しながら使わないとまずいのではないかと.労働分配率についてもコブダグラスなら変わらないし.
以上のまとめでの議論は,より単純に,人口が減少すると資本装備率が上昇するため一人あたり所得が減少すると理解した方が容易であると思います.平たく言えば,
- 人口が減る→単位時間あたり所得増(労働の限界生産性=実質賃金上昇)
- 人口が減る→一人あたりGDPが増える(Y/L上昇)
は生産関数から直に導かれる結論なのでその他の部分は蛇足なんです(well defineな生産関数なら一般に成立).というわけで少子化は,
- 資本所有が完全に平等なら一人あたりGDP上昇なのでみんなにとり望ましい
- 労働者の実質所得は上昇でレベルで見れば資本を持たない労働者にとってもレベルではのぞましい
と所得面では「悪くないじゃん」ということになると思います.問題は分配の方でしょう.これは生産関数だけでは片が付かない.さらに,少子化の進捗過程で相続を通じた資本所有の不平等かが進むか否かという問題があると思います.