まずは三択だって言うことに気づかねばならない

 今週もちょっと早読み『週刊ダイヤモンド』です.今回の特集は「正社員vsハケン 対立か共存か!?」と銘打っての格差問題*1.それにあわせてか「Data Focus」でも樋口美雄先生の雇用保険のカバー率低下のお話し.経済誌ということもあって,TV・新聞の派遣問題者よりも現実的な認識・解決策の模索に重点が置かれているかんじ.特集記事関連以外ではあいかわらず山崎元さんが冴えてます♪



 囲み記事ではおなじみ湯浅誠・雨宮処凜・赤木智弘の三人のそろい踏みなんですが,なかでも注目したいところは雨宮氏の「対立をあおるのは逆効果」という主張です.湯浅氏も他のメディアで同じような主張をされることが多いように感じます.
 全くそのとおりではある*2んですが……分配の問題は必然的にパイの取り合いにならざるを得ない点を忘れてはいけない! ダイヤモンドの表紙自体がそれを如実に表しています.

 
 一定の産出量(総所得)の元でA氏の有形無形の取り分を増加させるためには……どこかから取ってこなくてはならない.実に単純な算術です.この「一定の総所得」の前提がある限り「だれかの改善」という要求は「だれかの状況悪化」によってしか実現しない.
 今のところはその「だれか」を政府だの企業だのという抽象的な対象に設定することでこの算術の顕在化を避けているようですが,政府が徴税によって支えられ,企業が株主という「だれか」によって支えられていることを考えると問題は同じことです*3.また,製造業派遣への規制緩和を仮想敵にするのはもっと不味い.この点で池田信夫氏の囲みは正しい.今回の場合では仮に製造業派遣への規制が継続されていても失職者の肩書きが期間工・正社員だっただけでしょう.問題が生じたときにすぐに規制強化に答えを求めるというのは日本における経済学の普及度の低さを物語っているといえます.


 すると格差と雇用の問題への対応には3つの選択肢しかないことがわかる.


(1)だれからも奪わないしだれも救わない
(2)だれかから奪ってだれかを救う


そして,


(3)経済成長 


この3つ.


 僕が常々残念だと思っているのは,低所得者層の生活保障の必要性を感じている論者の多くが(3)の選択肢に冷淡なところです.それどころか経済成長が現在の低所得者層の苦しい生活の原因だなんて思っている人までいる.経済成長と相対的な格差の関係については議論が残りますが*4,絶対的な貧困への唯一にして最善の処方箋は経済成長なのです.
 にもかかわらず,貧困・格差論の人は(3)を推さない.そして(2)についても主張の核とはならないようだ.すると……貧困・格差論者はいろいろな現状分析はするけれど改善の提案は持たない議論に向かわざるを得ないんじゃないだろうか.これは旧来の左翼の「いろいろ言うけど何もしなかった(できなかった)」という歴史を再現させるだけな気がしてなりません*5


(追記)
 ナショナルミニマム(もしくはベーシックインカム)と経済成長についても書こうと思ったのですが,ちょっと長くなりそうなので割愛.手短に言うと,ナショナルミニマムの原資は最も非弾力的な経済活動からの税収のみでまかなうべきで制度をいじって達成することは不可能だし,出来たとしてもとんでもなく高くつくでしょう.

*1:それはさておき,週刊ダイヤモンドって毎号のように特大号な様な気がするんだけど(今回も),特大号の基準って何なんでしょw

*2:さらに雨宮氏の話は「正社員との対立」をあおるなということなのでこれには僕は全く同意ですが,でも彼らの要求の実現のためには「他の誰かから奪う」か後に説明する「成長」しかないのもまた事実なんです.

*3:企業は儲けすぎだからもっと負担をと言う議論には問題があるんだけど,それ以前に儲けすぎなんて言ってられない状況になって来ちゃいましたorz

*4:80年代以降の米国の例もあるので絶対的ではないにせよ,少なくとも長期では経済成長は多くの国で相対的な格差をも縮小させてきました.

*5:もっとも左右とわない日本の言論のダメなところかもしれない……そして僕のいわゆる言論人嫌いの原因でもあるw