労働者訓練の方法

人的資本蓄積の際に重要な論点は外部性です.人的資本が蓄積されてもその果実は100%その労働者のモノとなるわけではない.すると,人的資本の自発的な蓄積は過小になる.ひらったく言うと,勉強しても大して給料に跳ね返るわけじゃないからあんまり勉強もしないというわけ.

人的資本には二つの種類がある.どの会社においても役に立つような(一般的)人的資本とその会社を辞めてしまうorその会社がつぶれるともはや何の意味も持たないがその企業内にいる限り非常に高い生産性を発揮する企業特殊的な人的資本.そして,このような人的資本の蓄積には基本的に二つの方法があります.つまりは,企業内訓練と企業外訓練.
企業内訓練の良いところはその影響関係がかなり内部化されていることから,企業が自己資金を使ってその労働者に訓練を施すことになり,その結果,外部性があるのに政府の支援なしで済むこと.さらには,企業特殊的な人的資本の蓄積ができることです.

一方,企業外訓練は外部性の存在により公的な支援無しでは過小になります.さらに定義により企業特殊な人的資本の蓄積は不可能でしょう.

こんな理由から,普通経済学屋は企業内訓練の方が好きです(定義のはっきりしない好印象だったりする).「市場で解決できるならば市場にまかせる」という観点から選択肢を検討するというのは非常に経済学的な思考方法.でも,基礎としているモデルにちと問題がある気もしてきたりします.

というのも,技能の習得って基本的に「習う側」にやる気がなければ金かけてもどうにもならないものじゃないかな(あっ!といっても「近頃の若いモンは」論を展開するわけではないのでご安心下さい).

例えば,企業がその労働者に企業特殊的技能のトレーニングを受けさせるケースを考えましょう.このとき,訓練によって労働者の生産性は向上する.しかし,企業特殊的人的資本だから,各労働者にとってはその会社を辞めちゃえば意味がない技能なわけだ.すると,労働者にとってのOut Side Option(他社に移ったときえられる賃金)は向上しない.

ここで,0≦α≦1は労働側の交渉力をしめすパラメターとして賃金は


Out Side Option +α(その労働者の限界生産性-Out Side Option)


できまるとしよう.この時,労使間の交渉で労働者側の交渉力が0であるならば,このような訓練を受けても労働者にはなんのいいこともない可能性がある.だからトレーニング中は爆睡でもしてるのがBest Responceだ.企業もそれが分かっているからこのようなトレーニングを行わない.つまりは,その会社のための技能蓄積をしても報われることはない(←「必ず報いる」とか会社は言うかも知れないけど動学的整合性がないので×)

このように考えると,労働者側の交渉力が低いと労働者側に訓練を受けるインセンティブが低く,その結果として企業内訓練自体が盛んでなくなる可能性がある.近年,企業内訓練が盛んでなくなってきていることに対して,いろいろ非経済学的な批判や提言が行われているけれど……経済学的には労働運動の無力化がそのひとつの要因となる得るんじゃないかしら.

お.なんかちょっと面白くなってきたんで論文にしようかな.